ぶっちゃけ、茶碗蒸しなんてマグカップで十分だと思っていた。 耐熱のココットだってあるし、なんなら深めの皿にラップをかければ、味自体はそんなに変わらない。そう自分に言い聞かせて、数年間「専用の器」を買うのを渋っていた。理由は単純で、食器棚のスペースをこれ以上、用途の限られた道具に明け渡したくなかったからだ。
けれど、駅前の商業ビルに入っているセリアで、ふと目が合ったあの十草(とくさ)模様の器。110円という、失敗しても痛くない金額。それが、私の「茶碗蒸しは外で食べるもの、あるいは家で適当に作るもの」という認識を根底から覆してしまった。
結論から言えば、セリアの茶碗蒸し器は、茶碗蒸しを「料理」から「体験」に変えてくれる。 単に卵を蒸すための容器じゃない。あの蓋を開ける瞬間の高揚感、そして陶器特有のじんわりとした熱の伝わり方。こればかりは、どれだけ高級なマグカップを使っても再現できないものだった。
実際に買って、何度も蒸して、時には失敗してわかった、この110円の器の「リアル」を書き残しておこうと思う。
100均の棚の前で、私は何を基準に選んだか
セリアの食器コーナーは、いつ行っても誘惑が多い。 茶碗蒸し器だけでも、私が訪れた店舗には3種類ほど並んでいた。 一つは、今回私が購入した、白地に紺の縦縞が入った「十草模様」。もう一つは、無地のクリーム色で少しモダンな形のもの。そして、少し小ぶりで花柄があしらわれた可愛らしいタイプ。

私が十草模様を選んだのは、それが一番「茶碗蒸しらしい」からだ。 茶碗蒸しという料理は、視覚的な記号が重要だと思う。あの縦縞模様を見るだけで、脳が勝手に「これから出汁の効いた熱々の卵を食べるぞ」と準備を始める。
手に取ってみて、まず確認したのは蓋の収まり具合だ。 100均の蓋付き容器は、たまに蓋がガタガタするものがある。これは個体差が激しいので、店頭でいくつか試してみるのがいい(もちろん、優しく)。私が選んだものは、本体と蓋の間にほんのわずかな遊びがあった。密閉されすぎると、蒸している最中に中の圧力が上がりすぎて蓋が踊ってしまうから、これくらいがちょうどいい。
重さは、意外としっかりしている。 「軽い=安っぽい」というわけではないけれど、蒸し器の中で安定させるためには、ある程度の自重が必要だ。セリアのこれは、指で弾くとトントンと鈍い音がする。磁器というよりは陶器に近い、少し厚みのある作り。これが、後々の「保温性」に大きく寄与することになる。
実際に作ってみて気づいた、絶妙な「180ml」の壁
家に帰り、さっそく卵液を用意した。 茶碗蒸しの基本は、卵1に対して出汁3の割合。 Mサイズの卵1個がだいたい50mlだから、出汁を150ml足して、合計200mlの卵液ができる。

ここで、セリアの器のサイズ感が効いてくる。 この器、なみなみ注ぐと180mlくらい。つまり、具材(鶏肉、椎茸、かまぼこ、三つ葉)を入れることを考えると、卵1個でちょうど「器2個分」の茶碗蒸しが作れる計算になる。
これが、一人暮らしや二人暮らしには絶妙に使い勝手がいい。 余った卵液をどうしようか悩む必要もないし、器が大きすぎて蒸し時間が長くなることもない。
実際に具材を沈めてみると、器の口が広いおかげで、盛り付けがしやすいことに気づいた。 マグカップだとどうしても縦長になり、具材が底に沈んで見えなくなってしまう。けれど、この器は適度に浅く、口が広がっている。最後に入れた三つ葉が、表面に綺麗に浮かぶ。この「見栄え」の良さが、100円とは思えない満足感を生む。
蒸し器の中での振る舞い。そして「蓋」の真価
我が家には本格的な蒸し器なんてない。 いつも通り、深めのフライパンに布巾を敷き、器の半分くらいまでお湯を張る「地獄蒸し」スタイルだ。

ここで、セリアの器の「高台(底の足)」の高さが活きた。 高台がしっかりしているので、フライパンの底に直接触れる面積が少なく、熱が急激に伝わりすぎない。おかげで、茶碗蒸しの天敵である「す(気泡)」が入りにくいのだ。
そして、何より感動したのは「蓋」の仕事ぶりだ。 これまでラップで代用していたときは、どうしてもラップの表面に水滴が溜まり、それが卵液の上にポタポタと落ちていた。その結果、表面がボコボコになり、見た目も味も水っぽくなってしまう。
セリアの蓋は、内側が緩やかなカーブを描いている。 蒸気が水滴になっても、器の縁を伝って外に逃げるようになっている。 強火で2分、弱火で10分。火を止めてさらに5分放置。 恐る恐る蓋を外してみると、そこには鏡のように滑らかな、美しい黄色い表面があった。
「ああ、やっぱり蓋なんだな」と独り言が出た。 110円の投資の半分以上は、この蓋のためにあったのだと確信した瞬間だった。
食べてみてわかった、陶器であることの意味
スプーンですくって口に運ぶ。 まず感じるのは、温度だ。 陶器がしっかりと熱を蓄えているから、最後まで冷めない。 マグカップだと、食べている途中でどんどん温度が下がって、最後の方は少し寂しい気持ちになるけれど、この器は違う。最後の一口まで、出汁の香りが湯気と共に立ち上がってくる。

内側の滑らかさも特筆すべき点だ。 100均の安い食器の中には、表面がザラついていて、スプーンが当たる感触が不快なものもある。けれど、この茶碗蒸し器は釉薬がしっかりかかっていて、スプーンが「スッ」と滑る。 この滑らかさのおかげで、食べ終わった後の汚れ落ちもいい。卵のタンパク質がこびりついて取れない、なんてストレスもなかった。
ただ、食べている最中に一つだけ気になったことがある。 器の縁が、少しだけ厚いことだ。 上品な料亭で出てくるような、薄造りの器に比べれば、どうしても口当たりに「野暮ったさ」は残る。けれど、これは家庭でガシガシ使う道具だ。薄すぎてすぐに欠けてしまうよりは、これくらいタフな方が、日々の食卓には馴染む。
避けては通れない「収納」と「個体差」のリアル
さて、ここまで褒めちぎってきたけれど、100均ゆえの弱点もしっかり書いておきたい。
一番の悩みどころは、収納だ。 この器、スタッキング(積み重ね)が絶望的にできない。 蓋を外して本体同士を重ねようとしても、高台の形が合わないのか、2個重ねるのが精一杯で、しかもかなり不安定だ。 結局、食器棚の中では「蓋を閉めた状態」で並べて置くことになる。 茶碗蒸し専用のスペースを、常に確保しておかなければならない。これは、ミニマリスト的な暮らしを目指している人には、かなりのデメリットになるだろう。
それから、購入時の検品は必須だ。 セリアの棚をよく見ると、模様の線が少し歪んでいたり、表面に小さな黒い点(鉄粉)が飛んでいる個体がある。私はそれも「100円の愛嬌」だと思えるけれど、完璧な美しさを求めるなら、手に取ってじっくり選ぶ必要がある。
あと、これは私の不注意だが、洗う時に蓋と本体を重ねて持つと、石鹸の泡で滑って落としそうになる。陶器なので、落とせば当然割れる。100円だから買い直せばいい話だが、お気に入りの模様のものが廃盤になっていたらショックなので、扱いは慎重にしている。
「茶碗蒸し 器 セリア は共通の代替品をAmazonと楽天で探す」
セリアで品切れだったり、家族分をまとめて新調したくなったりした時は、ネット通販を活用するのも一つの手だ。Amazonや楽天で定番となっている代替品をいくつか挙げておく。
| 商品名 | 特徴 |
|---|---|
| 林金之助商店(Hayashikinnosuke) 美濃焼 蒸し碗 茶碗蒸し | 伝統的な美濃焼の質感 |
| ちゃわんむし器 茶碗蒸し 器 3個セット 食器 セット | 家族で使いやすいセット販売 |
| 蒸し碗 かわいい ちゃわんむし ほっこり 蓋物 | 食卓に馴染む柔らかなデザイン |
林金之助商店(Hayashikinnosuke) 美濃焼 蒸し碗 茶碗蒸し
焼き物の産地として知られる美濃焼の器。来客時など、少し背筋を伸ばしたい時の食卓に向いている。
ちゃわんむし器 茶碗蒸し 器 3個セット 食器 セット
まとまった数が必要な時に重宝するセット。形が揃っているから、冷蔵庫や棚の中でも収まりがつく。
蒸し碗 かわいい ちゃわんむし ほっこり 蓋物
普段使いのスープカップに近い感覚で使えるデザイン。和食に限らず、洋風の蒸し料理にも合わせやすい。
結局、セリアの茶碗蒸し器は「買い」なのか?
もし、あなたが「家で茶碗蒸しを作ってみたいけれど、専用の器を買うほどでもないかな」と迷っているなら、迷わずセリアへ行くべきだ。
110円で得られるのは、単なる器ではない。 「今日は茶碗蒸しを作ろう」と思える心の余裕と、食卓に並べた時の少しだけ贅沢な空気感だ。 マグカップで代用していた頃の自分に、「早く買いなよ」と言ってやりたい。
もちろん、収納場所を取るという欠点はある。 けれど、それを差し引いても、この器で食べる茶碗蒸しの味は格別だ。 冬は熱々を、夏は冷やして。 100円の器が、私の自炊生活をほんの少し、でも確実に豊かにしてくれた。
次は、この器でプリンを作ってみようと思っている。 卵と牛乳と砂糖。
